AI社員、2人目が入社した。スキャンした書類を毎日、読んで仕分ける係

AI社員、2人目が入社した。スキャンした書類を毎日、読んで仕分ける係

前回、AIをサーバーに“出社”させて、毎朝8時に freee の口座同期を無人でやってもらう話を書きました。あの記事の最後で「次は2人目の社員に、もう少し判断のいる仕事を任せる」と予告していました。今日はその続きです。

1人目に任せたのは、口座同期という「ボタンを押すだけ」の仕事でした。手順が完全に決まっていて、迷う余地がありません。今回の2人目は、もう一段むずかしい。「届いた書類を読んで、内容を判断して、正しい場所にしまう」という、事務員さんがやっているあの作業です。

紙が毎日たまる、という地味な現実

弊社では、契約書・請求書・送金明細・各種通知などの紙を、複合機でスキャンしてクラウドに送っています。スキャンしたPDFは、いったん1つの受け取りフォルダに全部たまります。

問題はそこからです。

ある1枚は「○○アパートの賃貸借契約書」だから物件フォルダへ。別の1枚は「今月の請求書」だから経理フォルダへ。さらに別の1枚は管理会社からの送金明細だから、その物件の収支フォルダへ。1枚ずつ中身を見て、名前を付け直して、正しい場所へ動かす。1枚なら1分ですが、これが毎日たまります。放っておくと「受け取りフォルダに名前のない PDF が数十枚」という、誰も触りたくない山ができあがります。

この「読んで・名前を付けて・正しい場所へしまう」を毎日やってくれる係。それが2人目の仕事です。

「判断のいる仕事」を無人に任せるときの壁

1人目(口座同期)と2人目(書類仕分け)の決定的な違いは、判断が要ることです。

事務員さんに書類整理をお願いしているところを想像してください。たいていの書類は手順どおりにさばけますが、ときどき「これ、どこにしまえばいいですか?」と聞きに来ます。見慣れない書類、物件名が読み取れないもの、ルールが決まっていないもの。そこで気軽に聞けるのが、隣に座っている人間のいいところです。

ところが2人目はサーバーの中にいて、私は隣にいません。聞きに来られても、その場では答えられない。かといって「分からないなりに、たぶんここだろう」で勝手にしまわれると、後でどこに消えたか分からない書類が生まれます。これは口座同期にはなかった、まったく新しい難しさでした。

そこで、毎朝9時に出社する2人目の働き方を、こう決めました(1人目の口座同期係は8時、書類仕分けの2人目は9時、と少しずらしてあります)。

  • ルールがはっきり一致するものだけ、自分で処理する(名前を付けて、正しい場所へ移動。1枚ごとに「これをこう動かしました」と Discord に通知)
  • 少しでも迷うものには、手を出さない。勝手に判断せず、その場に残したまま素通りする
  • 一連の作業が終わったら、「これは判断できませんでした」という一覧を最後にまとめて Discord に報告する

ポイントは、間違ってしまうより「分かりませんでした」と上げてくる方が、ずっと安全だという割り切りです。書類を変な場所にしまわれると、無くなったことにすら気づけません。でも「これ不明です」と報告が上がってくれば、私がその1枚だけ見て判断すればいい。判断のいる仕事を無人に渡すコツは、自信がないときに止まって報告する線をどこに引くかでした。

オンボーディングで地味に大変だったこと

ここからは、2人目を“入社”させるまでに手こずった点を、正直に書いておきます。

1. 既存の担当に、“在宅勤務”を覚えてもらった

実はこの書類仕分け係、前から作ってありました。もともとは私の横で働くサポート役で、見慣れない書類が来ると「これ、どこにしまいますか?」とその都度聞いてくる人です。聞ける相手がすぐ隣にいる前提の働き方でした。

今回やったのは、その同じ人に“在宅勤務”を覚えてもらうことです。サーバーの上で、誰にも聞けないまま一人でも回せるモードを足しました。最初は「無人でだけ動く専用の担当」を別に立てることも考えたのですが、書類の仕分けルールは今25種類あって毎月のように増えるので、担当を分けると同じルールブックを2冊持つことになり、いつか食い違います。だから担当は増やさず、一人に「出社して隣で働く」働き方と「在宅でひとり、無人でこなす」働き方の2つを持たせる形にしました。

2. 分厚すぎる業務マニュアルを、手順とルールに分冊した

なぜこれが要ったのか、から書きます。この担当の業務マニュアルは、いつの間にか730行に膨らんでいました。この人は仕事のたびにマニュアルを頭から読み込んでから動くので、分厚いほど読むのに時間がかかり、要点を見失いやすくなります。これは人でもAIでも同じで、マニュアルが厚いほど「どこを見て判断すればいいか」で迷い、仕分けの精度が落ちます。毎日正確にさばいてもらうには、まず机の上を片づける必要がありました。

中身を見ると、「作業の流れ」(めったに変わらない)と「仕分けルール一覧」(毎月増える)が1冊に混在していました。性質の違うものが同居していると、ルールを1つ足すたびにマニュアル全体が分厚くなっていきます。そこで、ルール一覧だけを別冊(共有のルールブック)に切り出し、本体は薄い手順書に整理しました。約600行分スリムになり、毎回の読み込みが軽く、迷いも減りました。おまけに、書類アップロードを手伝う別の係も同じルールブックを共用できます。マニュアルとルールブックを分けて、関係する係で1冊を回す形です。

3. サーバーの“備品が使えない”問題

2人目の仕事には、PDFを画像にする・文字の向きを判定する・傾いたページを直す・クラウドストレージに繋ぐ、といった道具が必要です。これらをサーバーに一式そろえました。さらに、無人で動かそうとすると「このサーバーでは、その操作は許可されていません」と弾かれる場面がありました。新人に、勝手に何でも触らせるわけにはいかない、というサーバー側の安全装置です。そこで「この係が使っていい道具はこれとこれ」という許可リストを、毎朝の自動更新でも消えない場所に置いて解決しました。新人に貸与備品リストを渡すイメージです。

4. 接続情報は“必要なぶんだけ”渡す

クラウドストレージへの接続情報をサーバーに渡す必要がありましたが、私の手元には別の案件用の接続先も入っています。全部渡す必要はないので、この係の仕事に要る1つだけをコピーしました。新人に会社の鍵束を丸ごと渡さず、担当エリアの鍵だけ渡す、という当たり前の話です。

いきなり本番デビューになった初日

セットアップを終えて、受け取りフォルダは空のはずだったので、「何もしない(処理対象なしと通知して終わる)」だけの無害なテストをするつもりでした。

ところが、作業している間に実際のスキャンが何枚か届いていて、いきなり本番データでの初仕事になりました。結果はこうです。

  • ルールがはっきり一致した書類 → 名前を付け直して正しいフォルダへ移動し、1枚ごとに Discord 通知(例:複合機が吐いた無名のPDFが、きちんと「○年○月〜の返済明細書」という名前で正しい棚に収まりました)
  • ルールが決まっていない書類 → 勝手に判断せずスキップし、「これは判断できませんでした」と理由つきで報告

特に良かったのは、ある物件の月次収支報告書が「その物件のルールがまだ無い」という理由で、ちゃんと手を止めて私に上げてきたことです。設計どおり、自信がないところで止まってくれました。誤って変な場所にしまわれていたら、私はしばらく気づかなかったはずです。

教えるほど、“在宅”で任せられる範囲が広がる

ここまで「迷ったら触らず報告」と書いてきましたが、その報告は捨てずに、次につなげています。むしろここが、この働き方のいちばん面白いところです。

仕組みはシンプルです。横で働いてもらっているとき(出社モード)に、ルールの決まっていない書類が出てくると、この人は「これ、どこにしまいますか?」と聞いてきます。そこで私が「これは○○だから、この棚へ」と一度答えると、その判断を共有のルールブックに1行書き足します。すると次からは、同じ種類の書類は“ルールの決まったもの”になります。

ここが効いてきます。ルールブックが1行増えるたびに、在宅勤務(無人モード)で自分でさばける書類の種類が1つ増えるからです。最初は「迷うので報告」だったものが、一度教えれば次からは無人で片づく。つまり、横でQ&Aをしながら働いてもらうほど、放っておいても回る範囲がじわじわ広がっていきます。最初の数日はわからない書類を何度も聞いてきますが、そのたびに在宅で任せられる仕事が増えていく、という育ち方です。

これは新人教育とまったく同じだと思います。最初は隣でいちいち質問に答えますが、答えた分だけ本人のできることが増え、こちらが見る回数は減っていく。違うのは、一度教えたことを忘れない点と、その教えが「書類アップロードを手伝う別の係」にも同じルールブック経由でそのまま共有される点です。一人に教えたことが、関係する係みんなの能力になる。育てるほどラクになっていくわけです。

まとめ:判断のいる仕事も、線を引けば任せられる

1人目(口座同期)は手順を実行するだけの仕事でした。2人目(書類仕分け)は、読んで・判断して・しまう、一段上の仕事です。それでも無人で回せたのは、能力を上げたからではなく、「迷ったら触らず、報告する」という線をはっきり引いたからでした。

これは人を雇うときと同じだと思います。新人に全部を完璧にやらせようとするとうまくいきませんが、「ここまでは自分で、ここから先は確認して」という線を最初に握っておけば、安心して任せられる。AIを社員として見ると、結局やっていることは普通のマネジメントなんだな、と改めて感じています。

弊社(株式会社PaPaPa)は私ひとりの会社ですが、これで「毎朝口座を最新にする担当」と「毎日届く書類を仕分ける担当」の2人が、無人で働くようになりました。私の仕事は、上がってくる日報(Discord通知)に目を通して、判断が要る数枚だけ手を入れること。事務スタッフを雇わずに、事務部門が静かに立ち上がっている感覚です。

次回は3人目。いよいよ一番判断のいる経理——「決めたルールどおりに仕訳を起票する」係の話を書く予定です。

最後まで読んでいただきありがとうございました。書類整理に追われている大家さん仲間の参考になれば幸いです。

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